日本の脳神経外科学の歴史は,結核や肺炎に代わり脳卒中が死因の第一位になった1950年代の後半に端を発し,この分野の必要性と重要性が社会から広く認識されるようになりました.横浜においても,1973年に新設された横浜市立大学脳神経外科学教室を中心に近代的な脳神経外科診療が普及し,脳神経外科学の発展と横浜をはじめ地域医療への貢献に向けた努力が今日まで続けられてきました.
この間,画像診断技術の向上,手術顕微鏡や神経内視鏡,脳血管内カテーテル治療による低侵襲手術の進歩,脳機能診断など先進的な技術が取り入れられ,市民にその恩恵がもたらされてまいりました.今日,脳神経外科医には常に最新かつ幅広い知識と高いレベルの技術習得が求められるようになっており,脳神経外科領域における専門医育成に向けた若手教育のさらなる充実が必要になってきております.
現在,脳神経外科を含む多くの臨床医学領域では,診療科(脳神経外科)としての専門医に重ねて,脳血管内カテーテル治療や神経内視鏡,小児脳神経外科,脊椎脊髄外科等のサブスペシャルティ専門医を取得する2階建ての専門医制度が取り入れられており,いわゆる専門家としての独り立ちは40歳前後となっているのが実情です.
脳神経外科診療に対する大きな期待に対しては,「人材育成」「地域医療体制の充実」「市民への啓発」「基礎・臨床研究活動の強化」という4つの柱でこれを支えることが求められます.これまで横浜市立大学はその中心的役割を担ってきましたが,大半の脳神経外科医が学外の広い地域の病院施設に所属し,脳神経外科学分野の細分化・多様化の進む現状においてすべての活動を行うには,大学という枠組みだけでは不十分です.また,本NPO設立以降の2024年4月から運用が始まった『医師働き方改革』でも,大学の枠を超えて広く横浜・神奈川で活動が必要となる「人材育成」「地域医療体制の充実」「市民への啓発」「基礎・臨床研究活動の強化」について,学外での活動はまだまだ業務として認識されていません.
前述の4つの柱を「事業」として成立させ,横浜市立大学脳神経外科学教室のみならずその活動に賛同される地域拠点病院,クリニック,企業,市民とともに一体となって遂行していく組織が必要と考えた結果,2021年11月に本法人「特定非営利活動法人 横浜脳神経外科研究会 (YNS; Yokohama Neurosurgical Society)」を設立するに至りました.
YNSは,大学等の研究機関や地域医療に関わる人々に対し,継続的な教育支援を行うとともに,講演会・研究会・学術集会の開催ならびに機関誌の発刊等の事業を安定的に展開し,脳神経外科診療・地域医療の連携強化や知識の啓発,脳神経外科学研究の発展を図り,医学の発展と国民の健康増進に寄与できるよう活動してまいります.
NPO 横浜脳神経外科研究会 理事長 山本哲哉